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680: 本当にあった怖い名無し 04/08/29 08:25 ID:naIENQtg

『三十四年前、北海道の襟裳岬の近くの漁村におもむいた。
当時、私は戦記小説を書いていて、ある医療機関の要職にある方から、
その漁村の沖合で、終戦の年の早春、将兵多数を乗せた輸送船が
アメリカ潜水艦の雷撃を受けて沈没したという話をきいた。

その折に沈没後、海に投げ出された兵たちが、
おろされた上陸用舟艇にわれ先にしがみつき、
舟艇に乗っていた将校達が、
舟艇が沈むおそれがあったのでそれらの腕を斬った。
その話をしたのは船に乗っていた将校の一人だという。
私は、事実かどうかたしかめるため、
札幌に一泊後、その漁村にむかい、村役場に行った。
680: 本当にあった怖い名無し 04/08/29 08:25 ID:naIENQtg

漁師の家は海沿いにあって、
その日、海は荒れていたので漁師は家にいた。
囲炉裡のかたわらに座っている老いた漁師に挨拶し、名刺を差し出した。
漁師は受け取ると、裏を返した。私の名前には肩書きがなく、
裏に書いてあるのだと思ったらしい。

私は新聞に連載小説を一度書いたことがあるだけの、
無名に近い小説家であった。
私は、輸送船の沈没のことを口にし、
将校が兵の腕を斬ったのは事実なのですか、とたずねた。
漁師は、私に険しい眼をむけると
 

「その話なら、しない。憲兵に口とめされているから・・・・・・」
 

と、言った。終戦後すでに二十五年もたっているのに、
漁師は依然として戦時に身を置いている。
戦争は終わっています、死んだ兵隊さんのことを思ってお話ください、
ご迷惑をおかけすることはありません、と私は説いた。

681: 本当にあった怖い名無し 04/08/29 08:28 ID:naIENQtg
 

漁師は、黙りつづけていたが、
しばらくして炉の火を見つめながら口を開いた。
急に漁師の顔に憤りの色がうかび、
言葉の流れ出るのをおさえかねるように話しはじめた。

村人が初めて輸送船の沈没を知ったのは、
海岸に漂い流れてきたおびただしい水死体だった。
防寒帽に防寒服、それに救命胴着をつけた下士官、兵の遺体で、
 

「なぜか知らぬが、腕のないものが多く・・・・・・」
と、漁師は言った。
 

茶褐色の遺体が海面をおおっていたという漁師の言葉に、
私はその情景が眼の前にうかぶのを感じた。

降雪中を、漁師たちは船を出して
海面に漂う生きた兵たちを救出し、遺体の収容につとめた。
なぜ、腕のない遺体が多かったのか。
それは救出された兵の口から知ったという。
それは軍の秘密事項とされ、憲兵が来て、口外することをかたく禁じた。


そのことを医療機関の要職にある方に
話したという元将校に、私は会った。
上質の背広を着た温和な眼をした初老の人であった。

その方の話によると、千島列島の占守島守備の守備隊員が、
米軍の上陸作戦が開始された沖縄救援のため
三隻の輸送船に分乗して南下途中、襟裳岬沖で一隻が撃沈されたという。
 

上陸用舟艇がおろされて将校が優先して乗ったが、
舟べりに多くの兵がしがみつき、沈没が必至となり、
それで将校が抜刀した。

「あなたも切りましたか」

かれは、一瞬黙り、
「私は暗号を抱いて舟艇の真ん中に座っていました。靴で蹴っただけです」
 

と、少し頬をゆるめながら言った。
私は、無言でうなずいていた。

吉村昭

682: 本当にあった怖い名無し 04/08/29 08:42 ID:nFH7/n/M

>>681
この話時々聞くけど、
いつも思うんだが、軍刀ってそんなにスパスパ人の
腕を切り落とせるもんなのか?

683: 本当にあった怖い名無し 04/08/29 10:52 ID:G3DmsyOC

>>682

「一刀のもとに」とは限らないと思うぞ。特にその状況では。

もちろん「その状況だからこそ」とも思えるけど、
どっちの風景で想像しても、非常に怖い絵ではある。

699: 本当にあった怖い名無し 04/08/29 21:14 ID:ppm1sfVo

>>681

船にしがみ付いたからってワザワザ骨が有る腕を切断しなくても
指切るだけでもいいじゃねーか?
1箇所、サクッって軽めに切っても塩水が染込んで来るから激痛で
船になんてしがみ付けネーよ。
ナンでもカンでも日本人の残虐行為にするんじゃねーぞ。半島野郎!

703: 本当にあった怖い名無し 04/08/29 22:36 ID:A5vf7gM5

>>699

揺れまくる小舟の上で、しかも救助を哀願する味方を
仕方なく斬るという過酷な状況において
狙いやすい腕を斬るのは至極当然

684: 本当にあった怖い名無し 04/08/29 11:00 ID:1i4HUwrT

でも黙ってたら舟が沈んでみんな死んじまうんだろ?
仕方あるめぇ。

685: 本当にあった怖い名無し 04/08/29 13:11 ID:A5vf7gM5

そりゃただでさえ満員なのに
情けをかけて過剰積載したら、下手すりゃ全員死ぬがな

686: 本当にあった怖い名無し 04/08/29 14:07 ID:0Ftoei2D

カルネデアスの板だな。
正直、もし自分が将校としてその場にいたら
…やっぱり斬ったとおもふ

687: 本当にあった怖い名無し 04/08/29 16:38 ID:aU0vnwBC

オレが兵卒の立場だったら、やはり将校の命のほうが大切だから
喜んで腕を切られたと思う。

688: 本当にあった怖い名無し 04/08/29 17:33 ID:1Cr8GG+K

>>687

それなら最初から船にとり付かなければよいとおもふ。

引用元:戦争、軍事にまつわる怪奇ネタ 二戦目