「愛嬌」ある名経営者となると、二人の顔が思い浮かびます。
その一人は、松下幸之助と並ぶ立志伝中の人物、
本田技研工業(ホンダ)の創業者である本田宗一郎です。
宗一郎を取材した最後の記者は自分である、と筆者はひそかな自負をもっています。
話は彼が亡くなる数カ月前の1991年春にさかのぼります。
「本田のおやじさんが新車発表会に出てくるんだけど、会ってみたいと思う?」
あまりに唐突な話で、すっとんきょうな声でこう聞き返していました。
なぜなら、本田宗一郎は病床に伏していて、
ほとんど外出もままならないと聞いていたからです。